大判例

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札幌高等裁判所 昭和58年(ネ)309号 判決

亡大橋久雄訴訟承継人控訴人

大橋桂子

中尾悦子

鈴木怜子

星野久子

大橋久昭

大橋宏樹

寺岡満理

右七名訴訟代理人弁護士

岸田昌洋

小黒芳朗

被控訴人

右代表者法務大臣

鈴木省吾

右指定代理人

吉岡秀雄

外三名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(一)  原判決を取り消す。

(二)  原判決別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)が控訴人らの共同所有であることを確認する。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

二  当事者の主張及び証拠

当事者の主張及び証拠は、次のとおり付加、訂正、削除するほか原判決の事実摘示並びに記録中の当審書証目録及び同証人等目録のとおりであるから、これらを引用する。

1  原判決二枚目表九行目の「八四四番四」の次に「(ただし、昭和三八年九月四日の分筆以前のもの。面積六四町六反八畝二〇歩。以下、特に断らない限り八四四番四はこれをさすものとする。)」を加える。

2  原判決三枚目表一三行目の「北側境果」を「北側境界」と、同裏三行目の「旧八四四番四」を「旧八四四番」と訂正する。

3  原判決四枚目表一二、一三行目を次のとおり改める。

「6 大橋久雄は昭和五九年一〇月一六日死亡し、同人の権利義務を妻控訴人大橋桂子、長女同中尾悦子、二女同鈴木怜子、三女同星野久子、長男同大橋久昭、養子同大橋宏樹、養女同寺岡満理が相続により承継した。

7 よつて、控訴人らは、被控訴人に対し、本件土地が控訴人らの共同所有であることの確認を求める。」

4  原判決四枚目裏一二行目を次のとおり改める。

「4 同6の事実は認める。

5  同7は争う。」

5  原判決六枚目表八行目の「土地連絡測量」を「土地連絡調査」と訂正する。

6  被控訴人の当審における主張

(一)  千歳市地区(七八六番及び八四四番四の各土地を含む。)においては、原判決事実摘示四(被告の主張)2にも記載のあるとおり、大正一四年四月一八日、北海道庁により旧国有財産法(大正一〇年法律第四三号)一〇条以下の規定に基づく境界査定処分がなされ、その結果、当時民有地であつた七八六番と官有地(無番地。未登記。)たる道路予定地及び水路敷地との境界は別紙図面赤線表示のとおりであること、並びに民有地八四四番四と官有地たる右道路予定地・水路敷地との境界は別紙図面青線表示のとおりであることが、それぞれ確定した。

(二)  そして、右旧国有財産法一〇条以下の境界査定に関する規定は、旧国有林野法(明治三二年法律第八五号)四条以下の規定を承継したものであるが(したがつて、明治三二年七月一日から大正一一年三月三一日までは右旧国有林野法が、大正一一年四月一日から昭和二三年六月三〇日までは旧国有財産法がそれぞれ適用された。)、これらの規定による境界査定は、官の所有に属する土地の区域を決定するとともに、官有林地と隣接地との境界を確定する行政処分(準法律行為的行政行為としての確認行為)であるから、これが確定している限り、この処分を受けた隣接地の所有者及びその承継人は、同査定処分と異なる主張をすることは許されないといわねばならない。

(三)  よつて、右境界査定処分を受けそれが確定している右土地につき、これと異なる境界を主張する控訴人らの本訴請求は、理由がない。

7  被控訴人の当審における右主張に対する控訴人らの認否

(一)  右(一)の事実は不知ないし否認する。

(二)  右(二)(三)の主張は争う。

理由

一請求原因1ないし3、4(二)(1)及び6の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、大正八年六月二〇日の分筆に係る八四四番四の土地は、昭和三八年九月四日、八四四番四、同番の六一ないし六七等に再度分筆され、右分筆後の八四四番四の土地が、控訴人らの現に所有する八四四番四の土地であることが認められる。

二そこで、被控訴人の当審における主張について検討する。

〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができる。

北海道においては、明治初期から官有の未開地につき逐次民間人に対する売払い、付与などの未開地処分が行われたが、これらの基となつた測量は、簡易な測量方法により当時の不完全な測量技術を用いて、しかも処分の対象となつた土地ごとに個別的に行われたものであり、また、未開地処分自体も計画的に行われなかつたことなどから、同一地域内の各土地の位置関係や境界が不明確になつたため、北海道庁は、拓殖事業の一環として、官民有地相互間の境界を測定し、併せて官有地の位置・形状・面積の調査等を目的として、明治二九年ころから土地連絡調査を開始し、本件土地付近一帯については、大正一一年に土地連絡調査のための測量が実施されたうえ、土地連絡査定図が作製された。

そして、右土地連絡調査の結果を基として、大正一四年四月一八日、北海道庁により、本件土地を含む千歳市地区について、旧国有財産法(大正一〇年四月八日法律第四三号)一〇条以下の規定に基づき、官有地につき、各隣接地所有者の立会いを求めた上、境界査定処分(以下「本件査定処分」という。)が行われた。そして、同法一三条によれば、隣接地所有者は、境界査定処分に不服がある場合には、訴願又は行政裁判所に出訴することができるものとされていたが、八四四番四の当時の所有者であつた瀧川弥兵衛をはじめ、他の隣接地所有者は、右査定処分に対し何らの不服申立てをせず、右査定処分は確定した。

右査定処分により、八四四番四の土地と官有地たる道路予定地・水路敷地との境界は別紙図面青線表示のとおりと査定され、また、七八六番の土地と官有地たる右道路予定地・水路敷地との境界は別紙図面赤線表示のとおりと査定された。そして、右青線は原判決添付別紙図面(千歳市中央八四四番四土地図と表示のあるもの)のは、に、ほ、へ、と、ち、り、ぬ、る、お、わ、か、よ、たの各点を順次結んだ線にほぼ該当し、別紙図面の赤線は右原判決添付別紙図面のハ、ニ、ホ、ヘ、ト、チの各点を順次結んだ線及びオ、ワ、カ、ヨ、タの各点を順次結んだ線にほぼ該当すると認められる。

以上のとおり認められ、右認定を左右すべき証拠はない。

三ところで、旧国有財産法一〇条以下の境界査定に関する規定は、旧国有林野法(明治三二年法律第八五号)四条以下の規定を承継したものであるが、これらの規定によつて行われる境界査定は、官民有地間の境界を確定し、これによつて官の所有に属する土地の区域を決定することを目的として、各隣接地所有者の立会いを求めて行われたものであり、かつ、査定に対しては訴願又は行政裁判所への出訴が認められていたのであるから、官有地と民有地との境界を確定する行政処分(講学上いわゆる準法律行為的行政行為としての確認行為)であると解すべきである。

したがつて、境界査定処分が確定している限り、この処分を受けた隣接地所有者及びその承継人は、同査定処分と異なる境界を主張することが許されないものと解すべきである。

別紙図面

四そうすると、現八四四番四を承継して共同所有する控訴人らは、本件査定処分によつて確定した昭和三八年分筆前の八四四番四の土地と官有地たる道路予定地・水路敷地との境界を争うことはできないものというべきであり、前記のとおり、本件査定処分により昭和三八年分筆前の八四四番四の土地と官有地との確定された境界は、ほぼ前記原判決添付別紙図面のは、に、ほ、へ、と、ち、り、ぬ、る、お、わ、か、よ、たを結ぶ線であるから、控訴人らは、右八四四番四と官有地たる道路予定地・水路敷地との境界が右線より南側であると主張することは許されないのであり、したがつて、右主張を前提にした、その間に所在する本件土地が昭和三八年分筆前の八四四番四に含まれる(したがつてまた現在の八四四番四に含まれる)との主張は、理由がないものというべきである。

五以上によれば、本件土地が、現八四四番四の一部であることを前提に、控訴人らの共同所有であることの確認を求める控訴人らの請求は、その余の点について検討するまでもなく、理由がないといわなければならないから、控訴人らの被承継人の請求を棄却した原判決は、結局相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法八九条、九三条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官丹野益男 裁判官松原直幹 裁判官岩井 俊)

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